旅立った愛犬を想う
水産科学者のアイデアから
「ペットの遺骨で真珠を作ってみませんか?」
開発者の一人であり、また自身も愛犬を亡くして間もなかった
松下教授のこんな一言から、〈虹の守珠〉は生まれました。
家族の一員として、子供たちと共に育ててきたジャック・ラッセル・テリアの「ラン」。
子犬の頃は非常にやんちゃで、家じゅうの取っ手を全部かじって壊してしまったこともあったんです。
が、成長とともに、こちらの気持ちを察するような、穏やかな良い子になりました。
そんなランが悪性リンパ腫になってしまった。
可能性のある治療を求めて日本中の名医を訪ね、様々な治療を試みましたが、10歳で逝ってしまいました。
火葬して帰ってきた遺骨は、元気に走り回っていたランを思い出すのが難しいほど、
ほろほろと崩れるような脆いものでした。
日々、食事を急かされたり、トイレシーツを替えたりが「面倒だな」と思うこともあったんです。
そうしたことが、突然、何にもなくなってしまうんですよね。
仕事から帰っても、家の中が妙に静かで。そうした中に小さな骨壷がポツンと置かれている。
どこか厄介者のようにも見えたし、それがちょっと情けなかった。
見るたびに、あの必死の治療も、ランをいたずらに苦しめただけだったのではないかと悔やむ気持ちもよみがえる。
そうした中で、奈留島で真珠養殖を行う多賀眞珠 清水多賀夫さん、奈留島を訪れていたウービィー株式会社 増田智江さんと出会いました。
愛犬ランがくれた最高の出会い
「ランの思い出を美しい形で残したい」。
その願いを、清水さんと増田さんが〈虹の守珠〉として具現化してくれました。大珠のアコヤ真珠養殖についておそらく世界最高の技術を誇る清水さん、動物たちを愛し、彼らと彼らを愛する人たちのための事業をいつか行いたいと考えていた増田さん、そして犬好きの水産科学者の私が化学反応を起こして、このプロジェクトが始まりました。清水さんと増田さんに、ここ奈留島で、ランが引き合わせてくれたのだと思います。
僕の知識をつぎ込み、三人で何度も何度も試作を重ね、2年にわたる試行錯誤の末、ついにランの〈虹の守珠〉が完成しました。
どの一粒も、二つとして同じものはない。
それぞれが違う形、違う輝きを持っています。
どれもがランの個性そのままのようで、僕にはかけがえのない宝になりました。
長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科
教授 松下吉樹