2022年1月11日 西日本新聞に掲載されました

2022年1月11日(火)の西日本新聞「ニャがさき探訪」コーナーに【真珠葬】のお話しが掲載されました。

青く、静かに広がる海。長崎県五島市奈留島の海辺でアコヤガイの母貝に、丁寧な手つきで透明な球体を入れるのは真珠養殖業を営む清水多賀夫さん(69)。その手元には、猫や犬の写真が置かれる。

球体の中にあるのは、写真のペットの細かくなった遺骨だ。清水さんは飼われていた愛猫や愛犬の骨が入った球を母貝に入れ、海の中で1年?1年半かけて真珠に生まれ変わらせる。いつもの真珠養殖とは異なり、前もってどんな性格だったか飼い主からの話を聞いており、その思いも背負う。

「ペットには生みの親と育ての親(飼い主)がいるがアコヤガイは3代目の親」。そう思って作業する。

家族の一員として、日々生活を共にするペットたち。その死に直面した際、飼い主の悲しみが和らぐよう東京の会社「ウービィー」(増田智江社長)が事業として取り組むのが「真珠葬」だ。「真珠が愛するペットを包み、飼い主の人生も照らすように」との思いからで、ペットの遺骨を包むように真珠を成長させる。依頼を受けるペットの約半数は猫という。

同事業に協力する清水さんと増田社長(56)が長崎大教授(水産学)の松下吉樹さん (58)と一緒になった席上が始まりだ。松下さんが愛犬を失い「遺骨を真珠にできないか」と提案。2年間試行錯誤が続いたが、遺骨を樹脂で包んだ球体にすることで真珠に成長。松下さんの犬の遺骨も真珠となり、「形見のように感じる。飼い主の悲しみを癒やす手段になる」。

真珠にするペットの遺骨はスタッフが引き取りに向かい、奈留島まで運ぶ。ペット1匹当たり8個の遺骨が清水さんに託されるのは母貝に入れても真珠にならないものもあるためだ。受け取り時は、飼い主が直接島を訪れ、自らの手で貝から真珠を取り出す。

昨年11月末、東京都在住の沢村恵子さん(47)が、愛猫「コテツ」の遺骨が入った真珠を引き取りに島を訪れた。30歳で飼い始め、子どものようにかわいがった。だが腎不全で、一昨年7月に夫と2人でみとった。いるだけで笑顔になれたのに…。その日から笑う機会が減り、以前から聞いていた真珠葬を行うため増田社長に遺骨を託していた。

当日、沢村さんは浜揚げされた貝を前にどきどきした。貝の中に指を入れるとごりっと硬い物があり、取り出すと輝いていた。「会いたくて楽しみだったが、怖くもあった。コテツはきれいな海で冒険して戻ってきた。私を喜ばせようと頑張ったと思う」

託した8個のうち6個が薄い青やゴールドなどさまざまな色が付き、かつての愛猫らしく個性が際立ち、笑顔があふれた。沢村さんは東京に戻った今、それを小皿に入れて毎朝、日に当てて眺める。「もう私の手元から離れることはない」。真珠になって吹っ切れた。(野田範子)