家族を失うつらさを、私たちは知っています。
悲しさだけでなく、どこにも救いのない深い後悔や罪の意識、だれにも言えない苦しさを
一人抱えて長い時間を過ごしたスタッフもいます。
ペットロスという言葉では表しきれない深い深い暗闇。
私たちは、〈真珠葬〉を通してそこに光を見つけることができました。
私たちがみなさまに伝えられること。
〈真珠葬〉を経て、やっと自分が許されたと感じた龍 陽子からのメッセージを
綴らせていただきました。
どんな暗闇でも前に進めば、必ず出口がみつかります。
お一人で苦しまれている方に、このメッセージが届くことを願っています。

私は2018年に〈真珠葬〉に出会い、愛犬Didierを預けました。
大好きなDidierに出会った時からこの世での別れ、そしてDidier珠(虹の守珠)に再会するまでの長いお話しですが、私の人生を変えたDidierの話を聞いてください。
龍 陽子
虹の守珠になったDidier
Didier(ディディエ)は、ワイヤーフォックス・テリアの男の子。
2000年3月3日おひな祭りの日に生まれて、2008年12月5日、尿路結石の術後経過が悪くて、8歳9か月でこの世を去った。
私が最初に出会った「Didier」は、1997年製作のフランス映画の中だった。Didierという犬(ラブラドールレトリバー)が、ある日突然、人間に変身してサッカー選手になって活躍するというハートウォーミングコメディ。
お尻の匂いを嗅いで挨拶するDidier、猫アレルギーになるDidier、外国人扱いされるDidier、ハエを食べちゃうDidier、くるくるっと回転して丸まって寝るDidier、褒められて伸びるタイプのDidier。すべてが愛らしいDidier。
私はDidierにすっかり魅了されてしまった。
そして、いつか、犬を家族に迎える時には、絶対に名前はDidierにしようと決めたのだ。
2000年4月21日。私の誕生日。何故か突然、犬を家族にする覚悟が決まった!
(それまでは、一人暮らしだし、働いているから留守番も長くなるし、朝晩の散歩も行かなくちゃいけないし、一人で犬を飼うのは無理だろうなぁとウジウジしていたのだ。)
それから、「私の犬」探しが始まった。
大型犬がいいなぁ。エアデールテリアがいいなぁ。
「大型犬はちからも強いし、体重も重いし、何かあった時、一人でケアするのは大変だよ」
友人からのアドバイスもあり、大型犬は泣く泣く断念。
数日後、欲しい犬種が決まった。平均体重8kg前後の小型犬。
エアデールテリアを小さくしたようなフォルムの
ワイヤーフォックス・テリア!
「タンタンの冒険」の主人公、タンタンの相棒ミルゥ(英語版ではスノーウィ)のモデルと言われている犬種だ。
ミルゥは愛嬌があり、ピンチの時には助けてくれる頼もしい相棒なのだ。
ワイヤーフォックス・テリアは、白、黒、茶の3色の毛色。
ミルゥみたいに白毛が多い子がいいなぁ。
とりあえず、見学のつもりで行ったブリーダーさん宅で出会ったのは、
背中に鞍を乗せているような黒毛の多い子だった。
「毛色なんか関係ない!」
母犬に甘えながら、コロコロと走り回っている「黒毛の多いおチビちゃん」に、
私は心を奪われてしまった。
5月3日、「黒毛の多いおチビちゃん」は、「Didier」になって、我が家にやって来た。
Didierと私の二人暮らしが始まった。
犬の学校に通って、一緒に出掛ける為のマナーを身につけて、週末は必ず犬友達と一緒に車で色々な所へ出掛けた。代官山のカフェや駒沢公園、鎌倉、山中湖、軽井沢や新潟にも。
Didierが一緒だと、何時間でも歩けたし、何をやっても楽しかった。
6歳になったある日、Didierのオシッコと一緒にパラパラパラと砂粒程の石が出てきた。それが最初の結石だった。
病院で教えてもらった処方食に切り替えても、
Didierの体質なのか、尿のPhはアルカリ性になったり酸性になったりで、
ストルバイト結石とシュウ酸カルシウム結石を交互に繰り返し発症した。
体質改善方法の色々な情報を集めた。
市販フードを手作り食にしたり、ホメオパシー等の自然療法や漢方薬も試してみたり。
しばらくは落ち着いていたが、2年程でまた繰り返し発症するようになってしまった。
オシッコが出なくなり、深夜の救急病院へ駆け込んだこともあった。
結石が詰まったときに行うチューブを尿道に差し込む処置は痛々しかった。
Didierは怒りもせず、吠えもせず良い子で我慢していた。
見ている私がいつも泣いてしまっていた。
詰まりが取れれば一安心だけど、結石は消えたわけではない。
膀胱の中に残ったままだ。
いつ詰まってしまうかという心配と恐怖は消えなかった。
それでも、麻酔をかけての手術はなるべく避けたかった。
Didierにとっては、どうすることが一番良い方法なのかと悩んでいた。
2008年12月1日。また詰まってしまった。
場所が悪く、チューブで結石を戻せなかった。
手術以外の選択肢はなかった。術前検査の数値は、心臓、肝臓共に問題無しだった。
病院近くの犬友達宅で「手術無事終了」の連絡を祈りながら待った。
「麻酔から覚めました」
やっと連絡がきた。
Didierに会いに行った。
傷口は塞がれてなく、とても痛々しい姿だった。
絶句だった。
「本当にこれで大丈夫なのか?菌は入ったりしないのか?」
不安な気持ちが頭の中でぐるぐる渦巻いた。
でも、先生を信じて、回復を待つしかなかった。
毎日、会社を早退して、Didierに会いに行った。
Didierが好きなオヤツやゴハンを持って行ったけど、ほとんど食べてくれなかった。
Didierは悲しそうな目で、私を見つめていた。
Didierは日に日に弱っていった。
私にはどうすることも出来なかった。
起きている現実が信じられなかった。
週末は家に連れて帰ろうと思った。何か変化を起こしたかった。
自宅なら、Didierがゴハンを食べてくれるかもしれないと思った。
2008年12月5日。術後4日目は金曜日だった。いつものように会社を早退して、病院へ向かった。
電車の中で電話が鳴った。病院からだった。
「今、Didierくんが息を引き取りました。」
心臓の鼓動が激しくなって、息苦しくて、今にも倒れるかと思った。
一旦電車を降りた記憶はあるが、何を話したのか、何も話さなかったのか、
その時の記憶はまったくない。
「早く、Didierを迎えに行かなくちゃいけない」
と我に返った。
病院に到着した。
Didierは綺麗にしてもらって、可愛い顔で横向きに眠っていた。
顔を近づけて、そぉっと抱きしめた。
「Dくん、ごめんね。そばにいてあげられなくてごめんね。ごめんね。ごめんね。。。」
消毒液の匂いがツンとした。

2018年の夏。Didierが虹の橋へ行ってから約10年が過ぎていた。
友人から「真珠葬やってみない?」と提案があった。
真珠葬って?
ホームページを隅から隅まで、読んでみた。
《愛するペットのご遺骨が、特別な真珠に生まれ変わります》
トップページに書かれていた。
そうやって生まれてきた真珠を〈虹の守珠〉と呼ぶらしい。
真珠って貝の中で勝手にできるものだと思っていた。
核入れ?養生?沖出し?貝の掃除?浜揚げ?
知らないことだらけだった。
真珠が出来上がるまでに1年以上もかかることにビックリした。
出来上がるまでに、人の手で色々な作業をしていることにビックリした。
感動と好奇心で興味を持った。

Didierの遺骨は、納骨する気になれず、家に置いていた。毎朝、Didierに挨拶してから、仕事に向かっていた。
遺骨のそばには、[あの憎たらしい石]も置いていた。
自分への戒めと後悔を忘れない為に。
たまにあの時の消毒液の匂いがリアルに蘇る。
Didierが亡くなって2か月が経った頃から、病院に対する怒りとそんな病院を選んでしまった自分への怒りが激しく湧き上がってきた。
身体中がガタガタ震えるような怒り。
哀しみより怒りだった。怒りが収まると後悔で落ち込んだ。
そして自分を責めた。
これが私の、いわゆる「ペットロス」の症状だった。
「ペットロス」は、哀しみだけではなく、怒りも伴う。
誰にもぶつけようのない感情。
誰も理解してくれるはずがないと決めつけてしまっている感情。
誰にも会いたくない。
誰とも話したくない。
突然、涙が溢れてしまう。
絶対に忘れてはいけない過ち。
自分を許さない為に[あの憎たらしい石]を毎朝見ていた。
遺骨の代わりに[あの憎たらしい石]でも、真珠は出来るのかな?
ふっと思いついて問い合わせてみた。
可能だった!
2018年秋晴れの気持ち良い日に[あの憎たらしい石]を預けた。

2018年11月[あの憎たらしい石]が樹脂でコーティングされた写真が送られてきた。
丸っこくて、綺麗!?
〈虹守核〉なるものに変身した。〈Didier守核〉だ。
他の子と間違われないように一個ずつにICチップが入っている。
個別番号が振られて管理されているのだ。
海洋用の小型版らしい。
Didierの首のあたりに埋め込まれていたICチップと同じようなものだ。
2018年12月
アコヤガイに〈虹守核〉を入れる動画が送られてきた。
特殊な器具で貝のくちを少しだけ開いて、グイっと貝の中に入れられた。
熟練された技。
「核入れ」という作業らしい。
網に入れられたアコヤガイが綺麗な海に沈められる動画も続けて送られてきた。
「Didierくん、行ってらっしゃいー」
真珠葬スタッフの女性が優しい声で見送ってくれていた。
優しくしてもらって、よかったね。
海、苦手だったけど、大丈夫かな。
いつのまにか、[あの憎たらしい石]が、
Didierの分身みたいな気がして、心配している自分がいた。
2019年1月
網の中にポロンと転がっている〈虹守核〉の写真が送られてきた。
アコヤガイから出てしまったらしい。
海の中に落ちないように特殊な網で保護されていた。
行方不明にならなくてよかった。
そして、また、アコヤガイの中へ。
〈Didier守核〉は、なかなかアコヤガイの中に落ち着いてくれなかった。
2週間後、また出てしまっていた。
核入れ出来るのは、1年に2シーズン(初冬と春頃)、それぞれ1か月間くらいしかない。
〈Didier守核〉は、綺麗にお手入れしてもらって、
Didier専用のBOXの中で冬眠しながら、春まで待つことになった。
2019年4月
「お待たせしました。春の核入れを行ないます。」というメッセージが送られてきた。
3度目の挑戦だ。
今度こそ、ふらふら出歩かないで、良い子にね。
願いも空しく、〈Didier守核〉は、なかなか貝の中に落ち着いてくれなかった。
もしかしたら、[あの憎たらしい石]が邪魔しているのかな?
忘れていた憎たらしさを思い出した。
やっぱり、[あの憎たらしい石]は憎たらしい。
2019年7月
「Didierくん、やっと落ち着いてくれましたよ!」というメッセージが送られてきた。
やったー!嬉しい!
このまま、良い子でね。
綺麗な海、気持ちよさそう。
私も一緒に入りたかったよ。

2019年9月
「Didierくんを沖合の海に移動させます」というメッセージが送られてきた。
〈Didier守核〉を抱いているアコヤガイを大きく成長させるためだそうだ。
沖合は栄養豊富らしい。
網目が大きくなった沖用の網に入っているアコヤガイの写真も届いた。
ここで、貝から出ちゃったら、もう救い出してはもらえないよ。
出ちゃだめだよ。
アコヤ母さんのおなかの中で良い子で眠っていてね。
2週間後、アコヤガイをお掃除している動画が送られてきた。
フジツボや海藻が貝の表面にびっしり張り付いている。
このままだと、アコヤガイが呼吸出来なくなるらしい。
〈Didier守核〉は無事に収まっていた。
よかった。
良い子、良い子、おりこうさんだね。
2019年10月
「大きな台風が発生したので、安全な場所に避難させます」というメッセージが送られてきた。
Didierと一緒に眠っている他の子達も、無事でいてね。
時々、Didierが眠っている奈留島の風景写真も送られてきた。
オレンジ色の夕陽、白と水色の可愛い教会、緑の木々、穏やかな蒼い海。
奈留島に行ってみたいな。

どんな〈虹の守珠〉が生まれてくるのかな。
ちゃんと育っているのかな。
〈虹の守珠〉を取り出す時は、どんな気持ちになるのかな。
色々な思いをはせながら、〈Didier守珠〉誕生の日を待った。
2020年3月20日 晴天
待ちに待った日!
〈Didier守珠〉の誕生に立ち会う為、奈留島へ。
動画や写真で見ていた実物の美しい海の景色が広がっていた。
ドキドキとワクワクで落ち着かない。
多賀眞珠に到着。
お世話になった清水社長が出迎えてくれた。
早速、海の上に浮かんでいる小さな小屋へ。
清水社長にご指導いただきながら、先ずは、〈Didier守珠〉が入っている貝のお掃除。
アコヤガイの外についている海藻や貝をナイフのようなもので、こそぎ落とす。
アコヤガイを傷つけてしまいそうで、なかなか力が入れられない。
見かねた清水社長が綺麗にしてくださった。
ICリーダーなる機械で、Didierの番号に間違いないかをチェック。
アコヤガイの上からでもちゃんとわかるのだ。
間違いなくこの中にDidierがいる。
いよいよ誕生だ。
高揚した気持ちとドキドキ。
アコヤガイを手に取り、指先で探す。
なかなか見つけられない。
すでに泣きそう。
見つけた!
指でグイっと押すと、薄いブルーグリーンの〈Didier守珠〉がコロリンと出てきた。

この一瞬にDidierと過ごした日々が一気に浮かんだ。言葉では説明できない、何かよくわからない感情があふれ出す。
全身のちからが抜けた。
泣き笑い。
私の掌の中にいるDidier。
小さくなって、ツルツルになったDidier。
可愛いぃね。
綺麗だね。
「あの憎たらしい石」がこんなに綺麗な真珠に生まれ変わってきてくれた。
これで、Didierに許してもらったのかな。
これで、自分を許していいのかな。
思い出すことが辛くて、あの日の記憶はそのまま止まっていたけれど、
少しだけ前に進めた気がした。
「あの憎たらしい石」がやっと成仏してくれた気がした。
これからも、あの時の胸の痛みが消えることは無いだろう。
でも、Didierと過ごした日々を愛おしい記憶として、
笑って思い出せる気がした。
「あの日」で止まっていた辛いままの記憶が、
Didier守珠の誕生を待っていた約1年5か月の間に、
新しい記憶としていつのまにか、動き出していた。
新しいDidierのストーリー。
おかえり。また会えたね。
薄いブルーグリーンのDidier守珠をそぉっと、そぉっと、撫でた。
Didierの笑い顔が浮かぶ。
新しいDidierの誕生を一緒に泣きながら喜んでくださった
真珠葬スタッフの方々の笑顔が浮かぶ。
ありがとう。
ありがとう。



